今回の記事では、「医療法人社団」と「医療法人財団」の違いについて解説していきます。
実は医療法人には、大きくわけて「社団」と「財団」の2種類があります。
そのため、これから医療法人を設立する場合、「どちらを設立すれば良いのか?」と疑問に思う人もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、「医療法人社団と医療法人財団の違い」や「そもそも医療法人とはどのようなものなのか」、「医療法人財団を設立するメリット・デメリット」についてくわしく解説していきます。
医療法人の設立を考えている、もしくは自分が働いている医療法人のことを知りたい、という場合は、ぜひ参考にしてみてください。
そもそも医療法人とは?
医療法人とは、医療法の定めに基づき設立された法人のことです。医療法人は病院もしくは医師、歯科医師が常時勤務する診療所、または介護老人施設を開設することを目的として設立されます。
医療法人と個人病院(クリニック)の違いは以下のとおりです。
またそれ以外にも、医療法人には以下のような特徴があります。
- 出資持分がない(2007年4月以降に法人設立する場合)
- 非営利である
- 医療にかかわる業務のみ可
それぞれ解説していきましょう。
出資持分がない
2007年4月に医療法が改正されて以降、医療法人は出資持分なしでしか設立が認められなくなりました。
出資持分とは財産権のことです。
たとえば出資持分ありの場合、出資者は法人を解散したときに出資金額に応じて法人の財産を得ることができます。
しかし2007年4月以降に設立された医療法人は出資持分なしとなるため、出資金額にかかわらず、出資者は法人から財産を得ることができません。
とはいえ、医療法改正前に設立された出資持分ありの医療法人はまだまだ多いです。
種類別医療法人数の年次推移によると、令和5年の段階で医療法人の総数58,005のうち、出資持分ありの医療法人が36,844と半数以上を占めています。
国としては出資持分なしへの移行を推奨しているようですが、現状は移行し切っていないということですね。
(参考:種類別医療法人数の年次推移)
非営利である
医療法人は、非営利であることが大原則となります。
これは、医療法人が地域医療の担い手であり、国民の健康保持に寄与することを目的として設立されるものだからです。
医療法にも以下のような定めがあります。
営利を目的として、病院、診療所又は助産所を開設しようとする者に対しては、第四項の規定にかかわらず、第一項の許可を与えないことができる。
医療法 第7条(一部抜粋)
簡単にいうと、「営利目的の病院や診療所に対しては医療法人設立の許可を与えないことができる」という意味です。
この点が営利目的で設立される一般的な法人と医療法人の大きな差であると言えるでしょう。
医療にかかわる業務のみ可
医療法人は、医療にかかわる業務についてのみ設立が可能です。
医療法では、以下のように定められています。
病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団は、この法律の規定により、これを法人とすることができる。
医療法第39条
ちなみに間接的に医療にかかわる法人を設立する場合は、MS法人(メディカルサービス法人)として設立します。
MS法人は、法令的には一般的な法人と違いはありません。
⇒MS法人とは?医療法人との違いやメリット・デメリットを解説
医療法人社団と医療法人財団の違い
医療法人社団と医療法人財団の違いは「設立時の基盤」です。
医療法人社団は「人の集まり」が基盤となって設立されます。
一方、医療法人財団は「財産」が基盤です。
簡単に違いについて説明していきましょう。
まず、医療法人社団については、普通の株式会社と似た仕組みとなっており、基金を拠出する「社員総会」、運営をする「理事会」、監視役の「監事」によって成り立っています。
ちなみに医療法人でいう社員は一般的な従業員を指すのではなく、株主に近い役割のことを指し、理事が兼ねることも可能です。
そのため理事が社員を兼務する場合は、理事を3名(うち1名が理事長)、監事を1名の最低4名を置くことで医療法人社団は設立できます。
一方、医療法人財団は寄附された財産を管理する「評議員会」、運営をする「理事会」、監視係の「監事」によって成り立っている医療法人です。
医療法人財団を設立するためには、評議員4名と、医療法人を運営する理事3名、監事1名が必要です。
医療法人社団の社員と違い、医療法人財団の評議員と役員は兼務できません。
そのため医療法人財団を設立するためには、最低で8名が必要ということですね。
ちなみに、現存する医療法人はそのほとんどが医療法人社団です。
種類別医療法人数の年次推移によると令和5年時点での医療法人の総数は58,005となっています。
そのうち医療法人社団が57,643を占めており、医療法人財団はたったの362で、割合にして0.6%とかなり少数です。
(参考:種類別医療法人数の年次推移)
医療法人財団を設立するメリット・デメリット
ここからは、医療法人財団を設立するメリット・デメリットについて解説していきます。
現存する医療法人のうち医療法人財団は0.6%しかないとお話ししましたが、その理由とも言える部分です。
詳しく解説していくので、ぜひ参考にしてみてください。
医療法人財団を設立するメリット
医療法人財団を設立するメリットは以下のとおりです。
- 財産の安定性が高い
- 患者さんや社会に与える印象が良い
まず医療法人財団のメリットとして挙げられるのが、財産の安定性が高いという点です。
医療法人財団の場合、財産そのものを法人としてみなしているため、財産を社外に流出させる処分は原則として認められていません。
そのため、出資者への払い戻しによる資金減少の心配がなく、財産の安定性が高いと言えるのです。
また非営利かつ安定性があることから、医療法人財団は患者さんや社会に対して好印象を与えます。
ただし、前述したとおり2007年4月の医療法改正以降は医療法人社団であっても出資持分なし(財産権なし)で設立しなければならなくなった影響により、ここで挙げた医療法人財団のメリットが必ずしも強みであると言えなくなってきました。
なぜなら、医療法人財団と出資持分なしの医療法人社団はともに財産の払い戻しをしないため、財産の安定性としては同じような機能を有しているからです
とはいえ、2007年以前に設立した医療法人社団の場合はまだまだ出資持分ありのところも多いので、ネームバリューという意味では、より患者さんや社会に安心感を抱かせるのはやはり医療法人財団の方だと言えるでしょう。
医療法人財団を設立するデメリット
医療法人財団を設立するデメリットとしては、以下の点が挙げられます。
- 設立のハードルが高い
- 医療法人社団と比べて自由に営業できない
- 医療法人財団の場合、乗っ取りも起こりうる
そもそもの話、医療法人財団は設立のハードルが高いです。
医療法人財団を設立するためには、病院設立に必要な土地、不動産、医療機器、などにかかる多額な投資を賄うだけの財産的な裏付けが必要となります。
また同族による寄付の場合、贈与税の対象になる可能性があるのも大きなハードルです。
そのため大企業のオーナーが私財で寄附をするようなケース以外、医療法人財団を設立するのは非常に難しいと言えるでしょう。
また医師の立場で見た場合、医療法人財団は医療法人社団と比べてが自由に運営ができないというデメリットもあります。
医療法人財団の場合、理事の選任など、実権を握っているのは財産を管理する評議員です。
前述したとおり、理事と評議員は兼務できません。
そのため最悪、評議員から理事に選任されなければ、医療法人を乗っ取られる可能性まであるのです。
その点、医療法人社団であれば、株主に近い立場である社員と理事を兼務することができるため、医師としては医療法人社団の方が自由に、リスクなく運営できる、と言えるわけですね。
このように医療法人財団は設立のハードルが高く、またリスクも重いです。
このあたりが医療法人財団の少なさに影響していると考えられます。
【まとめ】医療法人化するなら社団が基本
今回は医療法人社団と医療法人財団の違いについて解説をしてきました。
令和5年段階では、医療法人社団が99%以上で、医療法人財団はほとんどありません。
これは医療法人財団設立のハードルの高さや、医師から見たときのリスクの重さが要因となっていると考えられます。
そのためもし今から医療法人設立を考えているなら、基本的には医療法人社団の方を選択すれば良いでしょう。
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