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一人医師医療法人とは?定義や設立方法、メリットを解説!

一人医師医療法人

今回は一人医師医療法人についてお話しします。

医療法人化を検討している個人開業医の中には、自分1人で医療法人化したいと考えている方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は一人医師医療法人化について、以下のことを税理士目線から説明させていただきます。

  • 一人医師医療法人のメリット、デメリット
  • 一人医師医療法人化するべきケース
  • 一人医師医療法人の設立方法

一人医師医療法人化を考えている、もしくは一人医師で個人クリニックを開業しているという方はぜひ参考にしてください。

 

一人医師医療法人の定義とは?

一人医師医療法人の定義とは

一人医師医療法人とは、「常勤する医師または歯科医が1人か2人の診療所を開設している医療法人」のことです。

常勤医師が2人いる場合も定義としては一人医師医療法人となります。

元々昭和23年に制定された医療法では、診療所は「医師もしくは歯科医が3人以上勤務している」という条件を満たしているときのみ医療法人化が認められていました。

しかし昭和60年の医療法改正によって「常勤する医師(歯科医)が1人もしくは2人の診療所」でも医療法人化が認められたことで、一人医師医療法人化という定義ができたのです。

この医療法改正をきっかけに一人医師医療法人は増え続け、現在では医療法人全体の8割程度を占めています。

(参考:種類別医療法人数の年次推移 – 厚生労働省)

 

一人医師医療法人のメリット

一人医師医療法人のメリット

一人医師医療法人を設立するメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。

  1. 節税効果がある
  2. 一人医師でも社会的信用を得られる
  3. クリニック継承時の相続税対策ができる
  4. 診療所・病院以外も開設できる
  5. 自分の裁量で経営方針を決められる

基本的には一人医師医療法人であろうと常勤医師3人以上の医療法人であろうと、メリットはおおよそ似たようなものです。逆に言えば、小規模な一人医師医療法人でも十分に医療法人化のメリットを活かせるということですね。

それでは1つずつ詳細を説明していきます。

 

一人医師医療法人のメリット1.「節税効果がある」

一人医師医療法人を設立すれば以下の面で節税効果があります。

  • 法人税を適用できる
  • 事業所得を給与所得にできる
  • 所得分散ができる
  • 退職金控除を受けられる

1つずつ解説していきましょう。

法人税を適用できる

一人医師医療法人には法人税が適用されるため、一定以上の所得がある場合は大きな節税効果を得られます。

というのも個人所得は累進課税で課税されますが、法人の場合は法人税として違う税率で課税がされるからです。

累進課税は所得額によって税率が変わる制度で、以下の表のように最大税率は45%とかなり高めに設定されています。

累進課税
※画像引用:国税庁HP

一方、医療法人の法人税は15%~23.2%です。

塁審課税の税率表を見ていただければわかるように、所得が少ないうちは累進課税の方が有利です。しかし所得が900万円を超えたあたりから所得税率と法人税率が逆転し、法人税の方が有利になります。

そのため一定以上の所得がある場合は、法人化することで大きな節税効果を得られるのです。

事業所得を給与所得にできる

一人医師医療法人を設立することで、あなたの所得が事業所得から給与所得に切り替わります。

そのため自身への給与を会社の経費として計上し、さらにあなた自身が得た給与所得で給与所得控除を受けることが可能です。

この形を取れば2重の節税対策ができるため、大きな節税効果が得られる可能性があります。

また代表医師の給与は毎期ごとに設定ができるため、必要な分だけを給与所得として受け取ることも可能です。そうすることで累進課税で必要以上の税金が取られることがなくなるため、大きな節税効果を得られます。

所得分散ができる

一人医師医療法人化すれば個人の所得を分散させて納税額を抑えることができます。

一人医師医療法人はあくまでも医師が1人もしくは2人という医療法人であり、それ以外の役員や事務員、看護師については雇用するのが普通です。そこで、たとえば配偶者を役員にすれば、あなた(医師)と配偶者(役員)で報酬を分散させることができます。

分散して個人の所得を抑えることで累進課税の税率や社会保険料が下がるため、上手く活用すれば節税効果が大きいです。

退職金控除を受けられる

一人医師医療法人になることで引退時に退職金を受け取れるため、以下の計算式のような退職金控除を受けられます。

(収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 1 / 2 = 退職所得の金額

引用:国税庁HP

一人医師医療法人化した場合、節税によって法人に蓄えてきた資金を引退時に退職金として貰うケースが一般的です。このとき上記のような退職金控除が適用されるため、長期的に見ても医療法人化による節税効果は効いてきます。

 

一人医師医療法人のメリット2.「一人医師でも社会的信用を得られる」

たとえ医師が1人であっても、法人化すれば一定の社会的信用を得ることができます。

法人会計にすることで適正な財務管理がされていると見なされ、金融機関などに対する対外的な信用が向上するためです。

これにより融資が受けやすくなり、より医療体制を整えたり、事業拡張に踏み切ったりといったこともやりやすくなります。

 

一人医師医療法人のメリット3.「クリニック継承時の相続税対策ができる」

医療法人化はクリニック継承時の相続税対策としても効果的です

個人クリニックを継承する場合、継承に伴って相続税が発生します。ところが持分なし医療法人を継承する場合、原則相続税が発生しないのです。

ただし、医療法人には「持分あり」「持分なし」という区分があるので注意してください。「持分あり」の場合、継承時に相続税が発生する可能性があります。

とはいえ、法改正によって平成19年4月1日以降に医療法人化をした、もしくはする場合は、例外なく「持分なし」医療法人となるので、今から医療法人化する場合は気にしなくても大丈夫です。

 

ちなみに「持分」とは、簡単に言うと財産権のことを意味します。

個人クリニックの場合、クリニックの資産はあなた個人の資産と同意です。しかし医療法人の場合、クリニックの資産は法人のものであってあなたのものではありません。

ただ「持分あり医療法人」の場合、出資人が出資金の返還を求めれば出資割合に応じて法人の資産を得る権利を持っています。つまりあなたが出資者であれば、法人解体時やあなたが法人を離れるときに法人の資産を受け取ることができるため、それが財産であるとみなされるのです。

ところが「持分なし医療法人」の場合、出資金の割合にかかわらず出資人が法人の財産を得る権利を持っていません。(そのため一人医師が引退する時には退職金としてまとまったお金を受け取るのが一般的です)

このように持分なし医療法人の場合は個人の財産権がないことから、相続する財産が存在しないとみなされます。つまり、クリニックを継承しても相続税が発生しないわけですね。

このことから持分なし医療法人であれば、理事長を変更するだけで簡単にクリニックを継承することができます。とくに一人医師の場合は「医師の引退 = 廃業か継承」となるので、クリニックを残したい(誰かに継承したい)場合は医療法人化を検討してみるべきでしょう。 

 

一人医師医療法人のメリット4.「診療所・病院以外も開設できる」

一人医師医療法人を設立すれば、診療所・病院以外にもさまざまな施設を開設できるようになります。

個人病院の場合、開設できる施設数は1カ所のみで、かつ業務範囲は診療所・病院のみです。

一方医療法人であれば分院が可能で、診療所病院以外にも介護老人保健施設や看護師学校、医学研究所などさまざまな事業を手掛けられるようになります。

一人医師医療法人は医師が1人か2人なので分院による事業拡大は難しいかもしれませんが、業務範囲が広がるのは大きなメリットです。

 

一人医師医療法人のデメリット

一人医師医療法人のデメリット

一人医師医療法人にはメリットもある一方、デメリットも存在しています。

具体的には以下のとおりです。

  1. 事務処理が煩雑になる
  2. 財産を自由に使えなくなる
  3. 交際費が一部経費にならない
  4. 社会保険の加入が必須になる
  5. 個人による運転資金の借入が引き継げない
  6. 手続きに手間と時間がかかる

一人医師医療法人ということで、1人でやっている個人クリニックをそのまま法人化させたいと考える人は多いです。環境自体は大きく変わらないため、とくに何も変わらないだろうと考えてしまいがちですが、実は色々と面倒になることも多くあります。

そういった点もしっかり理解したうえで一人医師医療法人の設立を検討しましょう。

 

一人医師医療法人のデメリット1.「事務処理が煩雑になる」

一人医師で個人時代と変わらない経営を続けたとしても、個人と法人とでは事務処理がかなり異なります。

基本は会計事務所や事務員に任せることになるでしょうが、経営者であるあなたもあるていどは把握しておかなければいけません。

たとえば毎年の事業報告書の提出であったり、理事会の議事録作成であったり、面倒ごとが増えるので、個人時代より負担は大きくなるでしょう。

 

一人医師医療法人のデメリット2.「財産を自由に使えなくなる」

たとえ一人医師であったとしても、法人化することで財産を自由に使えなくなってしまいます。

法人の財産はあくまでも法人のものであり、あなた個人のものではないからです。医療法人に限らず、フリーランスなどの個人事業主が法人化するときと同じですね。

一人医師医療法人を設立したあとも個人時代と同じようにお金を自由に使ってしまうと最悪横領とみなされる場合もあるので注意が必要です。

 

一人医師医療法人のデメリット3.「交際費が一部経費にならない」

医療法人化すると、個人時代のように交際費を全額計上することができなくなってしまいます。

詳しくは以下の条件によって計上できる割合は変わってくるので、自分がどの立場であるかも把握しておきましょう。

  • 持ち分あり かつ 出資金が1億円以下
  • 持ち分あり かつ 出資金が1億円超
  • 持ち分なし かつ 税法上の出資金が1億円以下
  • 持ち分なし かつ 税法上の出資金が1億円超

 

〇持ち分あり かつ 出資金が1億円以下

飲食に要する費用の50%に相当する金額を超えない金額まで、もしくは800万円まで(事業年度が12ヶ月の場合)

 

〇持ち分あり かつ 出資金が1億円超

飲食に要する費用の50%に相当する金額を超えない金額まで

 

〇持ち分なし

※持ち分なし医療法人は出資金なしが原則ですが、以下の計算式で税法上の出資金を計算する必要があります。

{(期末総資産簿価-期末総負債簿価-当期利益(または+当期欠損金)} × 60% 

・税法上の出資金が1億円以下の場合

⇒ 飲食に要する費用の50%に相当する金額を超えない金額まで、もしくは800万円まで(事業年度が12ヶ月の場合)

・税法上の出資金が1億円超えの場合

⇒ 飲食に要する費用の50%に相当する金額を超えない金額まで

 

現状の交際費が高額におよんでいる場合は計上できない経費が大幅に増えることになるので注意が必要です。

 

一人医師医療法人のデメリット4.「社会保険の加入が必須になる」

医療法人化することで、従業員の社会保険、厚生年金への加入が義務付けられます。

個人事業主の場合は従業員が5人未満であれば加入義務はありませんでした。しかし医療法人化することで、その人数制限がなくなってしまうのです。

一人医師医療法人でも事務員や看護師とった従業員は雇用するかと思います。

保険料は法人と従業員での労使折半となるので、負担が増えてしまう点に注意しましょう。

 

一人医師医療法人のデメリット5.「個人による運転資金の借入が引き継げない」

個人時代に運転資金を借入していた場合、その負債は原則法人に引き継ぐことができません。

ただ法的根拠があるわけではないので、各自治体の解釈によっては引継ぎできるケースもあります。

もし引継ぎができなかった場合、法人化したとしても個人時代にした運転資金の借入については自身で返済していかなければいけません。自分の報酬に返済分も上乗せするなど、対策を立てておきましょう。

 

一人医師医療法人のデメリット6.「手続きに手間と時間がかかる」

医療法人化は普通の法人化よりも手続きに手間や時間がかかります。普通の法人化に比べて手続きが煩雑で、手続きができるタイミングも年2回のサイクルで期限が決まっているのが主な要因です。

一人医師医療法人を検討している方は、現状一人医師でクリニックを運営している方がほとんどだと思います。そのため、この手続きの手間は意外と大きな問題です。

また医療法人化するためには、いくつかの要件を満たさなければいけません。この要件を満たすのが大変だというケースもありますね。

医療法人化の手続きや要件については以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご覧ください。

⇒医療法人化の手続きやスケジュールを解説!まずやるべきこととは?

 

税理士目線で一人医師医療法人化をおすすめするケース

税理士目線で一人医師医療法人化をおすすめするケース

税理士からみて、一人医師医療法人化を検討した方が良いケースは以下のとおりです。

  • 年間の所得が1,800万円を超える
  • 社会保険診療報酬が5,000万円を超える(もしくは自由診療報酬も含めた報酬が7,000万円を超える)
  • 病院、診療所以外の事業を検討している
  • 事業継承を検討している
  • 医療機器の償却期間が終わる開業7年目

これらに当てはまる場合は、一人医師医療法人の設立を検討してみても良いでしょう。

ただし、これらに当てはまる場合でもほかの要因で医療法人化を見送った方が良いという場合もあるので注意が必要です。

 

ちなみに池上会計では現在、今が医療法人化すべきタイミングかどうかが1分でわかる無料診断を実施中です。

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一人医師医療法人の設立方法

一人医師医療法人の設立方法

一人医師医療法人の設立方法ですが、普通の医療法人化と違いはありません。

手順としては以下のとおりです。

  1. 設立事前登録
  2. 医療法人設立説明会
  3. 定款の作成
  4. 設立総会の開催
  5. 設立認可申請書の作成、提出
  6. 設立認可申請書の審査
  7. 設立認可書受領
  8. 設立登記申請書類の作成
  9. 登記完了

ただ前述したとおり、各自治体によって手続きができる期間が決められています。クリニックがある自治体のスケジュールがどうなっているかは事前に調べておいてください。

また、医療法人化の手続きやスケジュールについては以下の記事で詳しく解説しています。医療法人化に必要な要件についても解説しているので、ぜひ参考にしてください。

⇒医療法人化の手続きやスケジュールを解説!まずやるべきこととは?

 

【まとめ】一人医師医療法人の相談は池上会計へ

今回は一人医師医療法人について解説させていただきました。

一人医師医療法人とは常勤する医師が1人か2人の医療法人のことです。

現在、医療法人全体の8割程度が一人医師医療法人であるため、「一人医師医療法人 = 一般的な医療法人」と認識しても良いでしょう。

一人医師医療法人になるタイミングとしては、「個人クリニックの利益が増えてきて節税を考えるタイミング」というケースが多いです。

実際、タイミングさえ間違えなければ、医療法人化による大きな節税効果を期待できます。

また利益が大きくなった場合以外でも、病院、診療所以外の事業を始めたいときや、事業継承を考えているときには医療法人化を検討するべきタイミングです。

ただ医療法人化はタイミングを間違えるとむしろ損をしてしまうこともあります。良きタイミングは各々の細かい状況によっても変わってくるので、1度プロの会計事務所にご相談いただくのがおすすめです。

 

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医療法人化診断

 

たとえ一人医師であってもタイミングさえ間違えなければ医療法人化の節税メリットはかなり大きいです。

逆を言えば、医療法人化すべきタイミングで法人化しないと大きな損になりかねないので、もしあなたが個人の開業医なら、医療法人化については常に頭の片隅で考えておきましょう。