今回は「個人投資家が法人化する目安」について解説します。
仮想通貨で大きな利益をあげる人が出てきたり、新NISAによって投資に興味を持つ人が増えてきたりと、日本でも個人投資家が増えてきました。
そんな中で、「法人化によって節税できるのでは?」と考える人も多いです。
結論から言ってしまうと個人投資家の法人化にはメリット・デメリットの両方があります。
そのため投資家として法人化するべき利益の目安やタイミングについてもケースバイケースです。
そこで今回は、個人投資家が法人化する「目安・タイミング」、「メリット・デメリット」について詳しく解説していきます。
あなたも投資で利益が出ているなら、ぜひ参考にしてみてください。
個人投資家が法人化する目安・タイミング
個人投資家が法人化するべき目安については、「最終的にどれだけの税金を納めているか」で考える必要があります。
個人事業主が法人化を考える場合は「事業所得が800万円を超えたタイミング」など、売り上げや利益が1つの目安となります。
しかし投資家の場合、以下のように所得税の課税方式が2つあるため、単純に売り上げや利益だけで法人化すべきタイミングを計ることはできないのです。
- 総合課税制度
- 分離課税制度
総合課税制度は、普通の事業と同様に累進課税によって税金を納める方式で、最大税率は45%になります。
一方分離課税制度は、ほかの所得と合算せずに分離して計算して税金を納める方式です。
たとえば株式投資の場合は分離課税制度が適用され、税率は「所得税15% + 住民税5%」の合計20%が基本となり、所得額によって変動しません。(2024年3月時点)
このように投資内容によって税率が変わってくるため、利益が出ているからといって一概に法人化した方が節税できるとは言えないわけですね。
もちろん利益などの数字以外に「どのような投資をしているか?」という部分も大きな判断基準となります。
このように個人投資家の法人化は個人事業主からの法人化に比べて目安やタイミングを判断しにくいので、あるていど利益が出ているのなら1度専門家に相談してみると良いでしょう。
個人投資家が法人化するメリット・デメリット
次に個人投資家が法人化するメリット・デメリットについても解説していきます。
個人事業主からの法人化にはないメリット・デメリットもあるので確認しておいてください。
個人投資家が法人化するメリット
個人投資家が法人化するメリットとしては以下が挙げられます。
- 複数種類の投資をまとめて損益通算できる
- 赤字の繰越控除期間が延長される
- 経費の適用範囲が広がる
- 相続の対策ができる
- さまざまな取引で有利になる
- 節税効果を得られる
それぞれ詳しくみていきましょう。
複数種類の投資をまとめて損益通算できる
法人化することによって、異なる投資であっても利益と損失を相殺できるようになります。
たとえば不動産投資で家賃を得ている場合は不動産所得となりますが、FX取引で得ている利益は原則雑所得となります。
この場合、個人事業主だとこの2つの損益通算をすることができません。
つまり、不動産業で大きな利益を得ていてFXでマイナスになっていたとしても、マイナス分を不動産所得の利益から引けないということです。
その点法人化すれば所得の区分がなくなるため、どんな投資から得た利益であっても損益通算ができるようになります。
赤字の繰越控除期間が延長される
法人化することによって、赤字を繰り越しできる期間が最長10年まで伸びます。(平成30年4月1日以前に始めた事業の赤字については9年)
これが個人事業主の場合、白色申告であれば赤字の繰り越しはできません。青色申告であれば、翌年以降の3年間までなら繰り越すことができます。
ただどちらにせよ、法人の10年(9年)と比べるとかなり短いわけですね。
このように個人事業主と法人では赤字の繰越控除期間が大きく変わってくることは、法人化を考えるうえで大きなメリットだと言えるでしょう。
経費の適用範囲が広がる
個人事業主から法人化することで、経費として計上できる範囲が広がります。
たとえば以下は、個人事業主から法人化することで経費できる幅が広がる項目です。
- 住居費
- 出張手当
- 車両関連費
- 生命保険
- 退職金
当然経費にできる範囲が広がれば節税に繋がるため、法人化の大きなメリットであると言えるでしょう。
法人化による経費関連のメリットについては別記事で詳しく解説しているので、そちらも併せてチェックしてみてください。
⇒法人化によって経費にできる範囲が広がる!個人事業主との違いとは?
相続の対策ができる
財産の相続を考えているなら、法人化すれば相続対策になるといった部分も魅力的なメリットです。
持っている財産の種類が多い場合、個人名義での相続だとひとつずつ個別に相続する必要があり、手間がかかります。
その点法人名義であれば、財産ではなく法人を承継することで相続を簡潔に進めることが可能です。
また役員報酬として定期的に財産を親族などに支給すれば、将来的な相続税の負担減にもつながります。
さまざまな取引で有利になる
法人化することで社会的信用が増すため、さまざまな取引で有利になります。
たとえば、FX口座であれば個人口座より法人口座の方がより高いレバレッジをかけられたり、不動産投資であれば融資を引き出しやすくなったりと、投資をするうえでの実用的メリットは意外と大きいです。
ただし、投資家としてのスキルや実績が一定レベルに達していない場合は、逆に投資会社としての信用が低下してしまう恐れがあるので注意してください。
節税効果を得られる
総合課税される利益が多い場合は、法人化することで節税効果が見込めます。
これは総合課税での所得税率が最大45%なのに対し、普通法人の法人税の最大税率は23.2%だからです。
1つの目安として、総合課税される所得が年800万円を超えてくるようなら、1度税理士などの専門家に相談してみると良いでしょう。
個人投資家が法人化するデメリット
個人投資家が法人化する場合、メリットだけでなく以下のようなデメリットもあるので注意が必要です。
- 法人設立・運用にコストがかかる
- 法人のお金を自由に使えなくなる
- 含み益に課税される可能性がある
これらのデメリットも踏まえたうえで、メリットと照らし合わせて法人化するべきかどうか判断する必要があります。
それでは詳細を解説していきましょう。
法人設立・運用にコストがかかる
投資家に限った話ではありませんが、法人設立には資金・時間のコストがかかります。
また赤字でも法人住民税の納税が必要になったり、社会保険料の負担が必須になったり、事務処理の手間が増えたりと、運営コストも上がることになります。
法人化の節税メリットを考えるさいは、これらのコストについても考慮するようにしましょう。
法人のお金を自由に使えなくなる
法人化することでお金を自由に使えなくなるといった点も、人によっては大きなデメリットになり得るでしょう。
個人事業主であれば、売上として入ってきたお金は基本的にあなたが自由に使うことができます。
しかし法人の場合、そうはいきません。
法人のお金とあなた個人のお金を明確に分ける必要があるため、法人のお金を自由に使うことができなくなってしまうのです。
一人法人だからといって法人のお金を勝手に使い込んでしまうと横領になる可能性があるので注意してください。
含み益に課税される可能性がある
個人投資家の場合、含み益がいくらあっても決済しなければ課税対象にはなりません。
しかし法人の場合、売買目的有価証券とみなされると含み益であっても課税される可能性があります。
売買目的有価証券とは、短期的な時価の変動によって利益を得ることを目的として保有している有価証券のことです。
会計上の処理が難しいものなので、法人化するさいには、自分のケースだとどうなるのか1度税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
個人投資家が法人化する手順
個人投資家が法人化する場合、以下の手順で手続きを行うことになります。
〇法人化するさいの手順
- 会社の基本事項を決める
- 会社用の印鑑を用意する
- 定款を作成し、認証を受ける
- 資本金を払い込む
- 登記申請をする
〇法人設立後の手順
- 会社名義の銀行口座を開設する
- 個人事業の廃業手続きを行う
- 登記事項証明書、印鑑証明書を取得する
- 法人設立届出書を提出する
- 社会保険、労働保険の加入手続きを行う
基本的に、普通の個人事業主は法人化するケースと大きな違いはありません。
個人事業主から法人化する手続きについて、詳細は別記事で解説しているのでそちらをご確認ください。
⇒個人事業主から法人化する手続きを流れで解説!かかる費用や時間は?
ただ個人投資家の場合、保有している財産や取引口座の扱いについても考える必要があります。
このあたりについては、どうするのが1番得なのか簡単に判断はできないため、1度専門家に相談するのがおすすめです。
個人投資家として法人化したいなら池上会計に相談!
個人投資家で法人化を考えているなら、ぜひ1度池上会計にご相談ください!
個人投資家の法人化は考慮するべきことが多く、個人事業主が法人化するケースよりも個別に判断しなければいけないことが多いです。
それこそ投資内容や保有している財産によっては、法人化しない方が良いケースも多くあります。
池上会計ではそのことをしっかりと理解しているため、お客様の利益を第一優先に考えて、無理に法人化を勧めることはいたしません。
法人化するメリットがないならはっきりとそうお伝えしますし、メリットがある場合は、そのメリットをどうすれば最大化できるのか積極的にご提案させていただきます。
また現在池上会計では、法人化にかかわるご相談は初回無料とさせていただいているので、この機会にぜひご利用ください。
法人化の手続きが面倒だという方には、「法人設立を丸ごとお任せいただけるパック」のご用意もあります。
【まとめ】個人投資家でも法人化を検討してみよう
今回は個人投資家の法人化について解説をしてきました。
個人投資家の場合、課税方式が2種類あることから、個人事業主のように安易に法人化の目安を出すことはできません。
投資内容によってケースバイケースなので、メリット・デメリットをしっかりと把握したうえで自分に当てはめ、個別に判断する必要があります。
正直そのあたりの判断は難しいので、できれば利益が大きくなってきたタイミングで1度税理士などの専門家に相談してみることを強くおすすめします。