この記事では医療法人化について、医療関係に強い現役税理士の視点からメリットやデメリット、検討すべきタイミングなどを徹底解説していきます。
医療法人化は普通の法人化とは違い、手続きが煩雑だったり制約が多かったり、難しい面が多いです。
とくに「今は出資者持ち分なしの医療法人(出資者に財産権がない法人)しか作れない」ことや、「医療法人は非営利性を担保しなければいけない」ことなどは、普通の法人にはない悩みだと言えます。このあたりを理解せずに医療法人化をしてしまうと、あとになって後悔する可能性が高いです。
しかし、かといって医療法人化にはデメリットしかないのかというとそうではありません。医療法人化には節税面や事業の拡張性といった面で大きなメリットもあります。
重要なのは自分の状況を理解し、適切なタイミングで医療法人化をすることです。
ただ、それが難しいからこそ、医療法人で失敗してしまう医師の先生も少なくありません。
そこで今回は医療法人化について、メリットやタイミングなどを税理士目線から徹底的に解説していきます。
医療法人化に興味がある、もしくは検討している、という場合はもちろん、今はまだ医療法人化を考えていないという場合でも、ぜひ1度この記事に目を通してみてください。
医療法人化とは
医療法人化とは、開業医(個人病院)が医療法で定められた医療法人を設立することです。
法人として医療行為を行う場合、一般的な法人ではなく医療法人として設立する必要があります。
ただし、医療法人には一般法人とは違った以下のような要件が定めれており、これらを満たさなければ設立することができません。
- 社員が3名以上いること
- 役員として理事3名(理事長含む)、監事1名がいること
- 1ヶ所以上の病院・診療所・介護老人施設があること
- 医療行為に必要な設備・器具があること
- 年間支出予算の2か月分の運転資金があること
- 個人時代の設備を買い取る場合は別途そのための資金があること
- 医院の土地・建物は医療法人所有のものか、もしくは長期の賃貸借契約が担保されていること
- 既存の法人と同様の法人名を使用していない
- 誇大広告にならないような法人名であること
- 2つ以上の医療施設を保有する場合、それぞれの医療施設の管理者が事実上の雇用関係にないこと
このように医療法人を設立するためには、いくつかのハードルがあります。
詳しくは「医療法人化の手続きやスケジュールを解説!まずやるべきこととは?」の記事内で解説しているので、そちらも併せて確認してみてください。
医療法人と開業医の違い
医療法人と開業医(個人病院)の主な違いは、事業を行う人格です。
個人病院の場合、事業を行うのは医師個人になります。
しかし医療法人の場合、事業を行うのは法人格であり、医師個人とは明確に線引きがされるのです。そのため医療法人の契約や報酬についても、すべて医療法人に帰属します。
またそれ以外にも、個人病院と医療法人には以下のような違いがあります。
医療法人になることでできることは格段に増えますが、その分制約も増えるため、メリット、デメリットをきちんと把握しておくことが重要です。
医療法人化するメリット・デメリット
医療法人化には、以下のようなメリット、デメリットが存在しています。
〇メリット
- 節税効果がある
- 事業の拡張性が高い
- 継承・相続の対策ができる
- 社会的信用が上がる
〇デメリット
- 事務処理が煩雑になる
- 財産を自由に使えない
- 社会保険の加入が必須になる
- 交際費の一部が経費にならない
- 個人による運転資金の借入が引き継げない
- 医療法人化の手続きに手間と時間がかかる
これらのメリット、デメリットを理解せずに医療法人化をするのはかなり危険です。
医療法人化をすることで確かに大きなメリットを得られる可能性がありますが、反面、それ相応のデメリットも存在しています。
医療法人化するときの状況やタイミングによってもメリットとデメリットのどちらが強く出るかは変わってくるので、しっかりと理解したうえでの判断が必要です。
ちなみに医療法人化のメリット、デメリットについては別記事でも詳しく解説しているので、そちらも併せてご確認ください。
⇒開業医と医療法人の違いとは?メリット・デメリットを詳しく解説
また医療法人化の失敗事例を集めた記事もあるので、そちらも反面教師として参考になるかと思います。
⇒医療法人化の失敗事例10選!開業医が法人成りするデメリットとは
医療法人化を検討すべきタイミング
医療法人化を検討すべきタイミングは大きく分けて5つあります。
- 年間の所得が1,800万円を超える
- 社会保険診療報酬が5,000万円を超える(もしくは自由診療報酬も含めた報酬が7,000万円を超える)
- 事業拡大を検討している
- 事業継承を検討している
- 医療機器の償却期間が終わる開業7年目
もしあなたが個人事業主の医師で、かつこれらの条件に該当しているなら、1度医療法人化を検討してみるべきです。
確かに医療法人化をすることでデメリットが強く出てしまう場合もありますが、医療法人化をするべきタイミングでしないことも同様に大きなデメリットになり得ます。
なぜなら医療法人化をしないことで、無駄な税金を支払い続けたり、事業拡大のチャンスを逃したり、事業継承で失敗してしまったりするからです。
医療法人化は適切なタイミング行ってこそ、そのメリットを最大限活かすことができます。
医療法人化のタイミングについてもっと詳しく知りたい場合は、「医療法人化するべき5つのタイミング!売上の目安や条件について解説」をご参照ください。
医療法人化の手続きスケジュールを解説
ここからは医療法人化の手続きやスケジュールについて解説していきます。
医療法人化は一般の法人化に比べて手続きが煩雑なため、計画的に進めていかなければいけません。
医療法人化の手続きは手順は以下のとおりです。
- 設立事前登録
- 医療法人設立説明会
- 定款の作成
- 設立総会の開催
- 設立認可申請書の作成、提出
- 設立認可申請書の審査
- 設立認可書受領
- 設立登記申請書類の作成
- 登記完了
また、医療法人化は普通の法人化とは違い、都道府県によってあるていどスケジュールが定められています。
たとえば、以下は大阪府の例です。
このように各都道府県によって、おおよそ年に2回の申請スケジュールが設けられています。このタイミングを逃してしまうと医療法人化するまでに余計な時間がかかってしまうので注意が必要です。
そのほか、医療法人化の手続きやスケジュールについて詳しくは「医療法人化の手続きやスケジュールを解説!まずやるべきこととは?」の記事にまとめているので、ぜひ参考にしてください。
MS法人(メディカルサービス法人)とは?
医療にかかわる法人には、医療法人とは別にMS法人(メディカルサービス法人)というものもあります。
MS法人とは、法令上の医療機関でなくてもできて、かつ病院運営にかかわる事業を行う法人のことです。
MS法人は、法律的には一般的な法人と同じ扱いとなるため、医療法人独特の要件や制約の影響を受けません。
そのため、医療法人が事業分散、もしくは事業拡大のために設立することが多いです。医療法人、もしくは個人医院とMS法人の2つで事業を分散することで、所得分散による節税効果や資産分散によるリスク軽減といったメリットが得られます。
さらにMS法人であれば営利目的の事業を行うこともできるため、化粧品販売や医療機器の貸付といった事業を営むこともできるようになります。(医療法人は医療法によって非営利性を担保しなければいけません)
ほかにもMS法人の設立には色々とメリットがあるので、あるていど事業規模が大きくなってきたら検討してみても良いでしょう。
MS法人について、詳しくは以下の記事で解説しています。
⇒MS法人とは?医療法人との違いやメリット・デメリットを解説
医療法人化で失敗しない方法
医療法人化で失敗しないためには、税理士などの専門家に相談することを強くおすすめします。
というのも医療法人化は一般的な法人化より条件が厳しく、手続きも煩雑だからです。メリットも多い反面デメリットも多いので、素人判断で医療法人化してしまうと大きく損をし、後悔してしまうこともあります。
一度医療法人化してしまうと基本戻せないので、取り返しもつきません。
とくに今から医療法人化する場合は出資持ち分なしの法人しか作れないため、出資者の財産権がなくなってしまうことは理解しておきましょう。
そのうえで医療法人化するべきかどうかは、各クリニックの経営状況や事情に大きく左右されます。だからこそ医療法人化するかどうかは、専門家に相談して各々のクリニックに合わせた判断をする必要があるわけですね。
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もちろん、私たち池上会計に直接ご相談いただいても大丈夫です。
池上会計は医療関係に強い税理士事務所です。
医療法人化、MS法人の設立についても、しっかりと精査し、判断、説明をさせていただきます。
中には自分の利益のため、とにかく手続きを進めてしまう会計事務所もありますが、私たちは違います。医療法人化やMS法人設立をすべきでない場合はしっかりと説明し、そのうえでよりお客様の得になる提案をさせていただきます。
もちろん、法人化に限らず、節税や経営に関するご相談でも大丈夫です。
初回相談は無料でお受けしていますので、ぜひ1度ご連絡ください。
現在、以下の媒体から受付させていただいています。
【まとめ】医療法人化を検討中ならぜひご相談ください!
今回は医療法人化について、医療系に強い税理士という立場で徹底解説をさせていただきました。
医療法人化は一般の法人化に比べて手続きや判断がかなり難しいです。もちろん一般の法人化でもタイミングや状況をしっかり判断することは重要ですが、医療法人化の場合はより注意が必要となります。
そのため医療法人化については、税理士などの専門家に相談することをおすすめしています。医療法人化はメリットが大きい反面デメリットも大きいもので、さらに医師の先生が忙しい中自分でできるような作業でもありません。一般の法人化を経験したスタッフがいるという場合も、全然違う事務作業が必要になってくるので、できるだけ専門家を頼るようにしてください。
ただし、専門家である会計事務所の中には、デメリットを無視してとにかく法人化を勧めるところもあるので注意が必要です。その方が会計事務所にとっては儲けになるということで、お客様のことが二の次になっているパターンですね。残念ですが、こういうところは意外と多いです。
もちろん、私たち池上会計はそんことをしません。
きちんとお客様の状況を判断し、それをていねいにご説明したうえでお客様の意思を尊重しています。
とくに私たちは医療系に強い会計事務所なので、もし「医療法人化を考えている」、もしくは「ほかの会計事務所に勧められているけれど不安がある」という場合は、ぜひ1度私たちにご相談ください。
初回相談は無料なので、気軽にご連絡いただければと思います。