この記事では医者の独立開業について、税理士の立場からくわしく解説していきます。
現在、日本の医者はおよそ4人に1人が開業医です。
令和2年に厚生労働省が実施した統計によると、日本全国の届出医師数は339,623人でした。そのうち「病院(医育機関附属の病院を除く)の開設者又は法人の代表者」が5,142人、「診療所の開設者又は法人の代表者」が72 586人です。
ここから計算すると開業医の人数は77,728人となり、全体に占める割合はおよそ23%、つまり4人に1人が開業医という計算になります。(参考:厚生労働省_令和2年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況)
こう考えると、独立する医者も案外少なくはないと感じるのではないでしょうか。
ただそれでも開業を躊躇してしまう勤務医の方から話を聞いていると、「医者の独立開業はタイミングが難しい」、「そもそも自分に経営ができるのか不安だ」という意見が多い印象です。
実際に税理士の立場から見ても、医者の独立開業にはするべきタイミングというものがありますし、また、開業するべき医者とそうでない医者もいます。
そこで今回は、医者の独立について、メリットやデメリット、タイミング、適性などについてお話をさせていただきます。
税理士の立場から医者の独立開業についてくわしく解説していくので、ぜひ参考にしてみてください。
勤務医・開業医の違い
まず勤務医と開業医の違いについて、それぞれのメリット・デメリットという観点から説明していきます。
どちらにも良いところと悪いところがあるので、しっかりと理解しておきましょう。
勤務医のメリット・デメリット
まずは勤務医のメリット・デメリットについて解説をしていきます。
勤務医のメリットは以下のとおりです。
〇勤務医のメリット
- 雇用なので給料が安定している
- 雇用なので保険、年金が優遇される
- 組織で対応するため個人で責任を負う機会が少ない
- 先進的な医療に触れるチャンスがある
- さまざまな分野の医者とかかわる機会がある
- 専門医資格の取得に有利
まず、勤務医は雇用契約を結んで働くため、給料が安定している点や社会保障が優遇されている点がメリットとして挙げられます。
また医者という職業は医療事故などの責任リスクが大きいからこそ、トラブルに組織で対応できることはかなり大きなメリットです。病院によってはリスクマネジメントを専門にする部署もあるため、そういった病院に勤務できれば矢面に立たされる可能性は大きく下がります。
あとは学びについても、勤務医であるメリットは大きいです。
たとえば大きな病院であれば先進的な医療に触れるチャンスも増えます。また、さまざまな分野の医者と関わることもできるので、医療を学ぶ機会は開業医よりも多いです。さらに資格の取得についても病院側でバックアップしてもらえます。
このように勤務医には、雇用関係、組織によって得られるメリットが大きいです。
次に、勤務医のデメリットについてみていきましょう。
〇勤務医のデメリット
- 給料が一気に上がることは少なく、働きに見合わない人もいる
- 当直、オンコール、緊急対応などによって労働時間が長くなりがち
- 人手不足の病院では医師1人の負担が大きくなる
- 人事によって希望部署で働けない可能性がある
- 他部署の仕事に携われることは少ない
- 職場の人間関係に悩まされることがある
勤務医に限らず、雇用全般に言えることですが、給料が一気に上がることはほとんどありません。そのため優秀な人の場合、給料が働きや成果に見合わないと感じることも多いようです。
また病院によっては労働時間が伸びてしまったり、1人の医者にかかる負担が重くなったりします。
さらに人事によっては働きたい部署に行けないこともあり、他部署の仕事に携わることも難しいです。
あとは組織に所属する以上、人間関係での悩みはどうしても付いてきます。
このようなデメリットがあるため、大きな利益をあげたい人や明確にやりたいことがある人は勤務医に向いていないかもしれません。
開業医(独立)のメリット・デメリット
続いて開業医(独立)のメリット・デメリットを解説していきます。
まず開業医のメリットについては以下のとおりです。
〇開業医のメリット
- 勤務医より大きな収入を得られる
- 経営によって収益を大きくすることができる
- 独自の裁量でやりたいことができる
- 勤務時間をコントロールしやすい
- 人間関係によるストレスが少ない
- 地域密着で仕事ができる
まず収入面ですが、平均年収で比べると開業医は勤務医の1.6~1.8倍程度となっています。あくまでもこれは平均値なので、実際はそれ以上に大きく稼ぐ医者も多いです。(参考:第23回医療経済実態調査 報告)
また開業医なら独自の裁量でやりたいことができます。専門とする診療科目はもちろん、働き方や勤務時間についてもあるていど自分でコントロールがしやすいです。
さらに上司がいなかったりしがらみがなかったりすることから人間関係でのストレスが小さくて済むため、メンタル面で見ても健康的に働くことができます。
あとは、どこに病院を構えるかも自分で選べるため、たとえば故郷で地域密着型のクリニックとして開業する、といったことも可能です。個人クリニックであれば大きな病院と違ってより一人ひとりと向き合うことができるため、人によっては開業することで仕事のやりがいを得られることもあります。
次に開業医のデメリットについてです。
〇開業医のデメリット
- 経営が上手くできないと赤字になる可能性もある
- 診療所の開設費用や設備投資といった経費がかかる
- 退職金がないので老後の備えが必要
- 1人で開業している場合は休みが取りにくい
- 医療以外の業務もしなければいけない
- 自分が責任者となるため、トラブルのさいは矢面に立たなければならない
まず大きいのが、「収入の安定性に欠ける」いうデメリットです。
勤務医のメリットとして収入が多いという点を挙げましたが、それはあくまでも平均でみたときの話です。経営が上手くいかない場合はその限りではありません。
さらに勤務医は開業医なので、当然経費もかかってきます。とくに診療所の開設費や家賃、設備投資などは額も大きいので、患者さんが少ない場合はかなり厳しい出費です。
そのため経営が上手く回っていないと、収入が減るどころか、赤字になってしまう可能性まであります。
そのうえで医療法人化をしていない場合は退職金もありません。
また自分以外に医者を置いていない場合、臨時での休みが取りにくいといったデメリットもあります。いわゆるワンオペ状態ですね。
さらに経営を含め、医療以外の業務についてもやらなければいけないので、ただずっと患者さんの相手をしていたい、というタイプの人には向かないかもしれません。
あと覚悟しておかなければいけないのが、医療事故などのトラブルがあったさいの対応です。開業するということは当然あなたがその病院の責任者となります。そのため何かあったときにはみずからが矢面に立ち、責任を取らなければいけません。
このように開業医といってもいいことばかりではないので、その点はきっちり認識しておく必要があります。
開業医は何歳のタイミングで独立するべき?
開業医として独立するタイミングについては30代後半~40代前半でする人が多いですが、これについは一概には言えません。
実際、若い先生は30代前半で独立する人もいますし、逆に50代で開業して上手く経営しているという人もいます。
そのため「できるだけ若いうちが良い」という意見もあれば、「しっかり経験を積んでからの方が良い」という意見もあるのが正直なところです。
もちろん、それぞれの意見に理由があります。
〇できるだけ若いうちが良い理由
- 若い分返済期間が長いため資金調達がしやすい
- 経営やマーケティングといった新しいことを学ぶ体力がある
- 固定資産を長期に渡って活用できる
- 失敗してもリカバリーがしやすい
〇しっかり経験を積んでからの方が良い理由
- 経験があるため1人で診療しても不安が少ない
- 病院や医局との人脈を確立できている人が多い
- 若いうちは大病院の方が学ぶのに適している
基本的にはこれらの理由を参考にしたうえで、自分の現状や目的と照らし合わせて考えてみると良いでしょう。
効率的にガンガン経営をしていきたいなら若いうちから独立するのもありですし、しっかり学んで自信が付いてから独立したいなら少し待つのもありです。
医者の独立が難しい理由
「医者の独立は難しい」と言われるのは、医療に関する知識だけではなく、マーケティング戦略や経営スキルなど医者にとって専門外となる知識も必要になってくるからです。
たとえば医者が独立する場合、マーケティング戦略を綿密に立てる必要があります。
- 開業予定の地域に競合となる病院、クリニックがどれくらいあるか
- 競合となる病院、クリニックにはどのような強みがあるか
- ターゲットとしている年齢層が多い地域か
- ターゲットが見つけやすく、また通いやすい立地か
- 近隣にほかの施設はあるか
- 地域の人にどうやって自分の病院を知ってもらうか
などなど、かなり細かく考えなければいけません。
もちろんターゲット設定なども必要になってくるので、できればマーケティングについてはプロのマーケターと組んでやる方が良いでしょう。
また、経営スキルについても重要です。
たとえば経営スキルが足りず、資金繰りで失敗してしまう先生もいます。さらに、開業するということはあなたが雇用主となって人を雇うわけですから、従業員のマネジメント能力も必要です。
雇う人間はあなたが決められるため、病院にいたころのような人間関係のストレスはなくなるかと思いますが、上に立つということでまた違ったストレスがかかってくることは覚悟しておくべきでしょう。
あとは、営業スキル的なものも必要になってきます。
勤務医をしていると忘れがちになるかもしれませんが、「患者さん=お客様」です。当然患者さんは、先生の医者としてのスキル以外に、人当たりの良さ(接客態度)も加味して通う病院を決めます。そのため人と話すのが苦手だったり、普段から怖い印象を持たれがちだったりすると、少し苦労するかもしれません。
このように医者が独立開業するためには、医療スキル以外の部分が色々と必要になってきます。
こういった専門分野以外のことを求められるからこそ、医者からしてみれば独立開業が難しく思えるわけですね。
医療法人化と個人開業医のどちらを選ぶべき?
独立開業するうえでもう1つ出てくるのが「個人で開業するか」、「法人で開業するか」という選択肢です。
こちらについても一概には言えませんが、基本的には個人で開業して、売上が上がってきたタイミングで法人化する先生が多いのではないでしょうか。
ちなみに医療法人と個人開業医には以下のような違いがあります。
これらを踏まえたうえで、個人で開業すべきか、医療法人化すべきかを考えてみると良いでしょう。
ちなみに「開業医と医療法人の違い」や「医療法人化のタイミング」については参考記事がありますので、そちらも併せてチェックしてみてください。
⇒開業医と医療法人の違いとは?メリット・デメリットを詳しく解説
⇒医療法人化するべき5つのタイミング!売上の目安や条件について解説
独立すべき医者とそうでない医者の特徴
ここまで医者の独立開業について解説をしてきましたが、独立に向いている医者もいる反面、独立すべきではないタイプの医者もいるというのが正直なところです。
たとえば独立開業に向いている人には以下のような特徴があります。
- 安定志向より上昇志向が強い
- 経営やマーケティングといった新しいことを学ぶ意欲がある
- 医者として明確にやりたいことがある
- コミュニケーション能力が高い
一方、以下のような人は独立開業には向いていません。
- 上昇志向より安定志向が強い
- 医療行為に集中していたい
- コミュニケーションがあまり得意ではない
ただし、向き不向きについてはどちらが上、下、という話ではなく、あくまでも適正の話です。
独立開業すべきかどうか迷っている場合は、自分がどちらのタイプなのか振り返ってみてください。
【まとめ】医者の独立について専門家に相談してみよう
今回は医者の独立について、税理士の立場から解説をさせていただきました。
勤務医には勤務医の、開業医には開業医のメリット・デメリットがあります。
また人によって向き不向きもあるため、一概にどちらが良いということは言えません。ただ、自分がどちらに向いているのかは1度考えてみても良いでしょう。
ただし、開業医としてやっていくのはそれなりに大変な面もあります。
すべてを1人でやろうとすると失敗する確率が大幅に上がってしまうので、マーケターや会計事務所などの専門家に相談することを強くおすすめします。
ちなみに私たち池上会計は、医者の独立開業・医療法人化を得意とする会計事務所です。
開業時に必要な会計事務はもちろん、経営面についても多くのアドバイスを行ってきた実績があります。
私たちは結果にこだわる会計事務所です。
ただやみくもに顧問先を増やして事務処理だけをこなす一般的な会計事務所とは違い、独立開業の成功まで全力でサポートさせていただいています。(もちろん独立開業すべきタイミングでない場合は、その旨をしっかりご説明させていただきます)
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